RM_horseの競馬コラム

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競馬についてあれこれ書きます。

オジュウチョウサンの軌跡

 

最近の当コラムは、暗い話題や批判が多かったので

明るい話題も書きたいと思います。

 

先日、史上初の同一G15連覇を成し遂げた

オジュウチョウサンのこれまでの軌跡をたどります。

 

 

オジュウチョウサンは歴代最高障害馬

まず、オジュウチョウサンがどれだけすごいのか、

簡単におさらいします。

 

2020年4月18日の中山グランドジャンプ終了時点で、

オジュウチョウサンが保持している記録です。

※カッコ内は2位の記録です。

 

同一中央重賞 5勝(4勝)

障害重賞 13勝(8勝)

障害競争連勝 13連勝(9連勝)

J-G1勝利 7勝(5勝)

障害競争での獲得賞金 7億4300万円(4億9900万円)

 

同一中央重賞の5勝は、平地重賞を含めてのものです。

G1だけでなく、G3も含めた重賞でくくっても5勝した馬は他にいません。

それをオジュウチョウサン中山グランドジャンプ(J-G1)で達成しました。

 

しかも後に記しますが、オジュウチョウサンは途中で平地競争に挑戦をしており、

平地競争に出走しなければ出走できた障害競争が多くありました。

それでも従来の記録をあっさりと更新しています。

 

歴代最高の障害馬は?と聞かれれば、

100人中100人がオジュウチョウサンと答えるでしょう。

 

 

・デビューから障害転向まで(2〜3歳)

それではオジュウチョウサンのこれまでの軌跡をたどります。

 

オジュウチョウサンは父ステイゴールド、母シャドウシルエット

という血統です。

兄にラジオNIKKEI賞勝ちのあるケイアイチョウサンがいるため、

ある程度は期待されていたのだと思います。

 

美浦 小笠厩舎に所属し、オジュウチョウサン

2013年10月19日の2歳新馬戦でデビュー。

このデビュー戦は12番人気で11着と大敗を喫します。

続く2戦目の2歳未勝利戦(2013年11月16日)も8着と大敗。

ここから長い休養に入ります。

 

そして1年後、すでに3歳未勝利戦は終了しており、

オジュウチョウサンに残された選択肢は

・格上の500万下(現1勝)クラスに挑戦

地方競馬に移籍

・障害に転向

・引退

となっていました。

 

普通は2戦2敗で将来への望みが薄いため、

引退の選択をするオーナーが多いと思いますが、

重賞馬の弟という血統背景もあってか、障害への転向を選択します。

ここが第一のターニングポイントでした。

 

 

・力を蓄える4歳シーズン

2014年11月15日の障害未勝利戦で障害デビューを果たします。

しかし結果はなんと14着全く走れていません。

 

レースに見どころも全く無く、普通はここで引退です。

しかしオーナーは諦めきれなかったのでしょう。

おそらく引退を勧める厩舎と決裂し、和田正一郎厩舎に転厩しました。

この転厩が第二のターニングポイントです。

(この時点での成績では引退が当然で、小笠厩舎を責められません)

 

転厩初戦(障害転向2戦目)の障害未勝利戦でなんと2着に好走。

この時、人気は11番人気という人気薄でした。

 

その後次のレースでは3着と敗れ、

さらに次の障害通算4戦目で初勝利を挙げました。

今の絶対的な強さからは全く想像が出来ませんよね?

障害でも平地競争と同様、強い馬はすぐに勝ち上がるので

初勝利に4戦も要したオジュウチョウサン

この時点では全く名馬になることを誰も想像出来ませんでした。

しかし、ここからオジュウチョウサンは歴代最高障害馬になるのです。

 

話を戻すと、続く障害OP(中京)は勝利して連勝を飾るものの

3連勝を狙った障害OP(東京)では9着と大敗します。

 

そして2014年6月27日の東京JSで重賞に初挑戦します。

この時までオジュウチョウサンの主戦騎手は山本康志騎手でしたが、

乗り馬が重複していたため、調教を手伝っていた石神深一騎手に乗り替わります。

これが第三のターニングポイントでした。

(決して山本騎手が良くないと言っているわけではありません)

 

しかし、東京JSでは4着と勝てませんでした。

その後も福島での障害OP競争は勝利するものの、

イルミネーションJSは4着、そしてJ-G1初挑戦となる中山大障害では6着でした。

この時の障害界は、アップトゥデイトという絶対的な王者が君臨しており、

2着以下を大きく離す楽勝のゴールインで中山大障害を制していました。

オジュウチョウサンは6着と言えど、着差は4.3秒もついていました。

 

初勝利を含む3勝を挙げたものの、上位との差を痛感した4歳シーズンでした。

 

 

・覚醒の5歳以降

年が明けて5歳シーズン、初戦の中山での障害OPは2着と惜敗しました。

しかし、これが最後の障害レースでの敗戦でした。

 

続くJ-G1中山グランドジャンプを勝利し、初重賞勝利をJ-G1で飾りました。

この勝利は鞍上の石神騎手、管理する和田調教師も初のG1勝利でした。

(和田調教師は重賞勝利自体が初めて)

 

その後は東京での重賞を問題なく2連勝し(東京JSおよび東京HJ)、

暮れの中山大障害で前年大差をつけられたアップトゥデイトへの

リベンジに挑みます。

 

いくら登り調子のオジュウチョウサンと言えども、

アップトゥデイトも強いので接戦が予想されましたが、

蓋を開けてみれば全く相手になりませんでした。

2着アップトゥデイトに9馬身差の大差をつけて圧勝。

完全に勝負付けが済んだと思わせる勝ち方でした。

前年よりもコンディションを落としてはいましたが、

アップトゥデイトがあれほどの大差をつけられるのは衝撃でした。

 

翌6歳シーズンも阪神JSで勝利したのち、

中山グランドジャンプを当たり前のように連覇します。

 

 

・障害史上最高のレース

そして東京HJの勝利を挟んで暮れの中山大障害

ついにオジュウチョウサン単勝オッズは1.1倍になりました。

このレース、前年のリベンジに燃えるアップトゥデイトが大逃げをうちます。

現地で観戦していましたが、道中では20馬身ほどの差があり、

オジュウチョウサンの頭固定馬券を買っている大多数の人が

「こんなに差があって届くのだろうか?」

と競馬場がざわついていたことを記憶しています。

 

しかし最終障害までに一気に差を詰めて、

最終コーナーを回る頃にはアップトゥデイトとの差は

3馬身ほどになっていました。

 

ですがここからアップトゥデイトも粘ります。

絶対王者というのは強すぎて応援されなくなる現象があります。

オジュウチョウサン1着の馬券を買っているはずですが

馬券そっちのけでアップトゥデイト粘れ!と声援を受けていました。

ちなみに私はアップトゥデイトが大好きで単勝を持っていました。

単勝1000円であんなに熱くなったのは後にも先にもないでしょう。

 

しかしゴール前の急坂で脚が鈍ったアップトゥデイト

きっちり差し切りオジュウチョウサンが1着

勝ちタイムはレコードタイムの4:36.1と文句無し。

 

最後の直線のどよめきはなんとも表現し難い特別なものでした。

・馬券は当たった

・でもアップトゥデイト頑張ったなあ

・すごいデットヒートで見応えあった

オジュウチョウサン強すぎるよ

いろんな感情がないまぜになっていました。

 

このレースは是非見て欲しいです。

 

 

・7歳で平地競争に再挑戦

続く7歳シーズンはぶっつけで中山グランドジャンプを使い、

今度は2着アップトゥデイトに2.4秒差をつける圧勝

ここでもレコードタイムを更新します(4:43.0)

この時点でテイエムオペラオーが持っていた

JRA最多重賞連勝記録を更新する9連勝となりました。

 

そして、この勝利後にオーナーは平地競争挑戦を表明します。

 

障害レースでは文字通り敵無しの状態だったオジュウチョウサン

既に接戦に持ち込める馬さえいませんでした。

 

そして果敢にも平地競争に挑戦します。

しかし、オジュウチョウサンは平地では未勝利です。

通用するかどうかは未知数です。

それでも2,3歳時とは馬が違いますので、

どれくらい通用するのか興味が注がれました。

 

2018年7月7日の福島での開成山特別に武豊騎手を背に出走。

1番人気に推されると2着に3馬身差をつけて勝利しました。

これで障害レースと合わせて10連勝。JRA記録となりました。

この勝利で最大目標をファン投票で出走可能な有馬記念としました。

 

平地2戦目は1000万下クラス(2勝クラス)の南部特別に出走。

ここでも2着に半馬身差をつけて勝利しました。

ちなみにこの時の6着馬が後に新潟記念2着になるジナンボー

レースレベルは決して低くなかったことがうかがえます。

 

そして迎えた有馬記念のファン投票。

競馬ファンの関心は高く、第3位の票数で優先出走権を得ました。

1000万クラス勝ちの馬であるにも関わらず単勝5番人気に支持されて

有馬記念に挑みます。

 

レースでは直線で先頭を捕らえるような脚を見せるも、

後続の差し馬に交わされて9着で入線となりました。

 

 

・諦めきれない平地レースと、無敵の障害レース

8歳となった2019年、オーナーはまだ平地挑戦を諦めてはいませんでした。

しかし、春には平地競争で適レースが無かったため、

障害レースの阪神SJから中山グランドジャンプを使います。

 

障害レースは久々でしたが阪神SJを完勝し、

続く中山グランドジャンプも危なげなく勝利し、4連覇を達成しました。

 

夏は休養にあて、秋からは再び平地に挑戦。

しかし六社S(3勝クラス)、アルゼンチン共和国杯ステイヤーズSと3連敗を喫します。

そのいずれも掲示板(5着以内)に載ることが出来ませんでした。

 

8歳という年齢もあるかもしれませんが、オジュウチョウサンの平地レースの実力は

2勝クラス程度なのだと思います。

今後は平地レースに出走するかどうか明言していませんが、

おそらく平地挑戦は終了しているのではないでしょうか?

 

そして9歳となった2020年、前年と同様の阪神SJからローテーションで

中山グランドジャンプ5連覇を狙います。

そして迎えた中山グランドジャンプ当日、大雨の降る不良馬場でしたが

そんな条件も関係無くゴール前できっちり差し切り前人未踏の5連覇を達成

9歳でもまだまだ障害では無敵であることを証明しました。

 

 

 

オジュウチョウサンの強さの秘密

合っているかわかりませんが、オジュウチョウサンの最大の強さのポイントは

障害の飛越にあると思います。

 

普通の馬は障害前で減速して上に向かってジャンプして安全に飛越するのですが、

オジュウチョウサンの場合は、とにかく低い飛越で減速が少ないのです。

もう障害に接触するギリギリを攻めます。

 

それを象徴する映像が以下の飛越です。

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なんと飛越をせずに障害を蹴りながら通過しています。

並の運動神経では真似できない芸当です。

 

道中のスピードが維持されることもそうですが、

それよりも大事な要素があります。

 

馬の減速は騎手が手綱を引っ張ることで行います。

それによりスタミナを少しずつ消耗していくのですが

オジュウチョウサンは消耗が最小限で済んでいるので

最後の直線での余力が他の馬とは違うのです。

 

なのでオジュウチョウサンのレースは最後の直線で

他の馬が止まって見えるくらいの末脚を発揮します。

 

これはオジュウチョウサンの唯一無二の武器です。

 

 

 

オジュウチョウサンの最大の被害者

オジュウチョウサンがあまりにも強すぎて、

実績がかすんでしまった馬は多々います。

 

特にオジュウチョウサン以前の障害界の王者アップトゥデイト

仮にオジュウチョウサンがいなければ、歴代最高障害馬でした。

 

アップトゥデイトは2015年の中山グランドジャンプ中山大障害を制し、

その他重賞4勝を含む障害通算8勝をしています。

障害レースでの獲得賞金は4億5千万円を超え、

オジュウチョウサン、ゴーカイ、コウエイトライに次ぐ4位にランクインしています。

オジュウチョウサンの獲得賞金は飛び抜けていますが、

ゴーカイとは5千万円弱の差です。

 

しかし、オジュウチョウサンの2着となったレースが実に4回もあるのです。

そのうち3回はJ-G1です。

つまり、オジュウチョウサンさえいなければ、

障害競走での獲得賞金は1位、J-G1勝利数も1位タイになっていたはずなのです。

同じ時代に生まれてきてしまったが故に獲得賞金もかなり損してしまいました。

 

ですが我々ファンとしては2017年の中山大障害という、

伝説のレースを目撃することが出来ました。

アップトゥデイトには感謝です。

 

 

 

・おわりに

今後オジュウチョウサンよりすごい障害馬は、

100年くらい出てこないのではないか?

そう思わせるくらい強いです。

 

後世に語り継がれる馬をリアルタイムで見ていることを自覚し

次のレースにも注目します。