デットーリ騎手インスタ更新騒動から見る、現行制度の問題点
11月30日の朝、競馬は2つのニュースで揺れました。
1つはアーモンドアイの香港カップ出走回避。
そしてもう一つはデットーリ騎手が土曜日の未明に
自身のインスタグラムを更新していたということです。
多くの人がご存知の通り、騎手は競馬開催の前日夜に
競馬場近くの調整ルームに宿泊します。
そしてその間、外部との接触は禁止されています。
当たり前に持っている携帯電話やパソコンでの通信も禁止です。
そして、デットーリ騎手のアカウントがインスタグラムを更新したのは
調整ルームに入っている時間帯でしたので、
外部との通信により騎乗停止処分になるのでは?と騒がれました。
騎手の調整ルーム内での通信機器の使用は過去に4例あり、
その全てが30日間の騎乗停止となっています。
内3例はTwitterでのツイートをしていたことが判明したものです。
今回のデットーリ騎手のインスタグラム更新は、
調整ルーム入室前に英国の秘書に写真を送付し、
秘書が英国から更新したと判明したため、騎乗停止処分にはなりませんでした。
この決定自体は全く問題ありません。
ですが、このニュースの記事を見ると、現行制度の問題点が見えました。
・不服申し立て制度による抜け穴
問題のニュースの記事を引用します。
調整ルームから外部と通信することは、公正確保の観点から禁止されている。過去には当時JRA騎手となったばかりのルメールが、15年2月28日に調整ルームでツイッターを使用し、即日から30日間の騎乗停止処分となった。ただし、16年から行政不服審査法が改正施行され、日本中央競馬会施行規定154条に不服申し立てできる条項ができたことに伴い、仮にアウトでも今週土日の騎乗は可能。処分は翌週からとなる
知らなかったのですが、2016年から不服申し立ての条項が追加され、
申し立て期間を設けるために当該週の騎乗は可能とのことです。
これ、おかしくないですか?
確かに今回のような騎手側に落ち度がないケースに関して、
不服を申し立てが出来ずに騎乗停止となってしまうことは不公平です。
しかし、本当に八百長等の不正をはたらく目的で外部との連絡をした時、
内容までいかなくとも通信の実態が明るみに出たとしても
当該週は不正を防げずにレースが行われてしまいます。
そもそも調整ルーム入室中に不正に関する連絡をするのは、
その翌日または翌々日に関連した話にしかならないはずです。
そして過去の例からも通信の発覚だけであれば30日の騎乗停止で済んでいます。
毎週騎乗馬が確保されている騎手にとっては痛手ですが、
週に騎乗があるかどうかの乗鞍が少ない騎手にとってはそこまで影響が大きい処分ではありません。
そういった騎手を利用して八百長等の悪いことを企む余地を残しているのではないでしょうか?
そもそも、通信機器の使用禁止が不正防止の抑止に貢献しているかどうかも怪しいです。
・調整ルーム制度は古くからあり、時代に合わせたルール改定が必要
現行の調整ルームはいつから始まったのか?意外と古くからありました。
1965年、当時の現役騎手が起こした競馬法違反の事件が発端となり、翌66年秋に運用を開始。各競馬場と東西トレセンに設けられた。前日午後9時までの入室が義務。その後は週の最後の騎乗が終わるまで外出できない
1966年というとまだ携帯電話なんて無い時代で、調整ルームに缶詰にさえしてしまえば
外部との接触はよほどの事をしない限り無理です。
競馬法違反の事例がきっかけで運用を始めたというだけあって、しっかりとした対策になっています。
しかしそれから時代は流れ、現在はスマートフォンを皆持っています。
通信機器はセーフティボックスに預けるのが通例だそうですが、
厳格なルールになっているでしょうか?
外部との通信による騎乗停止の例は4例あると書きましたが、その詳細を記します。
◾️大江原圭
2011年5月14日、調整ルーム内でTwitterを閲覧し、
操作を誤ってリツイートをしていたことが判明。
◾️原田敬伍
2013年6月28日、調整ルーム内でTwitterを閲覧し、
友人のツイートに対して複数回返信したことが判明。
2015年2月27日、調整ルーム内でTwitterを閲覧し、
知人のツイートをリツイートをしていたことが判明。
◾️丸山元気
2016年10月1日、調整ルーム内でメールを送信したことが判明。
2年に1回くらいのペースで調整ルームでの通信機器使用が発覚しています。
丸山騎手以降、今日まで通信に関する違反はありませんが
通信機器の個室への持ち込み禁止の運用が厳格になったからでしょうか?
上記リンクの説明や最近の調整ルームへの取材を見る限りそんな気はしません。
・通信機器の持ち込みを禁止にすべきでは?
先に申し上げておくと、八百長等が行われているという疑いを持っているのではありません。
ただし抜け穴の多いルールだなと思います。
もし、公正確保のために全力を注ぐため、
外部との通信禁止を厳格に運用するのであれば、
JRA側がきちんと調整ルーム入室前に通信機器の預かり、管理をすべきです。
場合によっては金属探知機による検査も必要かもしれません。
「みんなちゃんとここのセーフティーボックスに預けてね」くらいの運用では
各自のモラルに任せるしかありません。
でなければ外部通信の発覚を4回も繰り返しません。
持ち込んでいる人はいっぱいいるのではないでしょうか?
もちろん想像でしかないですが、明るみに出る事例がこれだけありますので
ハインリッヒの法則※を考えれば持ち込んでいる人はたくさんいそうです。
誰も悪いことはしないだろうという性善説で運用しているのはよくありません。
通信さえしなければ別にスマホを持ち込んでもいいよ、ではいい加減すぎます。
・不正のトライアングル
人が不正行為を実行するに至る仕組みに関しては、
不正のトライアングルという理論があります。
以下のページを参考にしましたので、詳しくはそちらをご参照ください。
第8回 不祥事発生の要因を考える ~不正のトライアングル~ | 株式会社 日本経営協会総合研究所
不正行為は①機会、②動機、③正当化という
3つの要素が全て揃った時に発生すると考えられています。
①機会
機会とは、不正をする機会・環境があることをいいます。
今回の例では、上記のように容易に通信機器を持ち込めるのは
この機会にあたります。
②動機
動機とは、不正をするしかないと考えるに至った事情です。
例えば収入が少ないとかですが、JRAの騎手は収入が多いようですから
あまり該当しないと思われます。おそらくJRAが油断しているのは
これがあるからです。
ただし、莫大な借金を抱えてしまったとか、そういう人が現れれば別です。
③正当化
正当化とは不正をはたらく時に自らを納得させる理由付けです。
これは事情があって仕方ないとか、もしくは外部からの圧力があったとか
そういった理由をこじつけることです。
JRAが主催者として出来ることは、機会を与えないルールの管理と
動機付けをさせないために収入を確保させることです。
収入に関しては前述の通り問題ないと思いますが、
問題は動機の部分です。
まず、不服申し立て期間を設けていることによって、不正を考えられた時に防げません。
これについては冤罪による騎手の不利益を守ることもあるので、なかなか難しい問題です。
そして通信機器の使用に関しては容易に出来ていそうなので
ここはやろうと思えば出来そうです。
もちろんルールの締め付けは反発が大きくなるため、簡単ではないです。
しかし今はゆるゆるなスタンスである気がします。
・最後に
6月の禁止薬物騒動の時も感じましたが、
JRAはこういったルールを作る統率力を全く感じません。
生え抜きや天下りだけでなく、民間企業から優秀な人材を取り入れる必要があると感じます。
今のところ不正の予兆は感じませんが
ルールの不備を放置していては後々に大変なことになることを自覚するべきです。